今年の4月に八王子市でアパートの外階段が崩落して入居者が死亡した事件がありました。このアパートは築8年とそれほど古いというわけではないので非常に不可解な事件です。新築からこの事故が起きるまでの間に多くの関係者の方がかかわったはずです。施主、不動産営業マンやその上司の方、設計者、施工業者、そこから依頼を受けた職人さん等。いつも思うのですがこの関わった多くの方々の中には「本当にこんな施工で大丈夫?」と思った人がいたのではないでしょうか・・・記事によると外階段の設計が勝手に変更されていて木部と鉄部が入り交ざって階段が製作されていたとのことでした。<東京新聞web版より>
なんと踊り場は木造、階段部分のみ鉄製
一般的には鉄製の階段と鉄製の踊り場が組み上がったものを現場に設置することが多いです。つまり階段は鉄骨で造ります。今回のような踊り場が木製という場合(あまり無いと思いますが)は鉄骨とのジョイントの仕方を相当慎重にしなければならないでしょう。記事によると〇部分(イメージ図参照)の4点留めで処理しています。外階段で常に風雨にさらされているのでこんな留め方ではすぐに腐食することは自明の理です。しかしアパートが完成したときには化粧材でうまく隠蔽されていたのでしょう。このような施工ではおそらく職人さんの中には「これで本当に完成か?」と感じた方もいたはずです。もしかしたら現場監督に対し「本当にこのおさめ方でいいの?」と確認したかもしれません。しかしわかっていたとしてもそのことを発言する職場環境ではなかったのでしょう。このアパートを建設した会社やその関連会社について、「正しいこと」というよりは「通常の判断」を許さない環境が構築されていたのでしょう。そのことにより「効率」のみが優先されて「安全」がないがしろにされてしまったのです。東京・神奈川で合わせて75棟。大きな流れが出来上がってしまい現場の声が全く届かない環境。「本当はこれではマズイ」と言えない環境。そのことで人が命を落とすことになるとは・・
【記事から抜粋】
★設計事務所の担当者・・・「私は鉄骨で設計しており、木造で施工されたことは知らなかった」、「雨などに弱い木造の階段は腐食のリスクがあり、当時は全国的に施工の実績もほとんどなかったため、頼まれても木造の設計はしなかったはずだ」と説明する。(建物完成を見ていない。あくまで設計のみ)
★管理人はこの約2時間前、別の住人から「階段の部品が落下している」と連絡を受け、近くのホームセンターで木材を購入して補修した。(補修する人が危険性の重大さを判別できなかった)
★事故の2時間前に『階段がおかしい』と管理会社に連絡があったと聞いたが、私どもにはなんの連絡もなかった。連絡してくれていれば、メンテナンスしたのにと悔やまれる。
★アパート施工会社社長は「管理会社から連絡があれば、メンテナンスしたのに、悔やまれる。被害者に対して申し訳なく、できる限りのことをしたい」と話した。
【帝国データバンク】2021/5/14倒産動向記事より 5月2日付けで当該アパート建築会社(不動産業)自己破産申請 負債総額6億円
不動産投資という観点からは建築費が抑えられたことでキャッシュフローのみが優先されていたのではないでしょうか。不動産的な観点(当然これは大事ですが)だけでなく建物をしっかりと見る目を養っておくこと、そこに関連する人達が「通常の判断」ができ発言できる環境づくりが大切だとつくづく思うのでした。